リモートコントローラー


至幸  頭のてっぺんから足の爪先まで、何度も繰り返し視線をやった。茅ヶ崎は居心地が悪そうに、膝下まであるスカートを両手でおさえている。取り急ぎのウィッグも、レースの白いブラウスもスカートも。確かに男性らしさを消せているわけではないものの、それでも違和感はほとんどなかった。メイクは、今回瑠璃川が薄く施したが、泉田にお願いすればもっと自然に女らしくなるだろう。
 二十歳をとうに過ぎた大人なのに。
 無意識に、自分の腕に爪を立てていた。瑠璃川のスカートから伸びる脚は、いつかはもっと中性的なものだったはずなのに、いつのまにか男っぽさが強く現れてきたように思う。
「あの……もう脱いでいい?」
 茅ヶ崎の声で我にかえる。「だめ」考えるより先に、言葉が口をついた。眉根を寄せつつも茅ヶ崎はそれに従ってくれた。「どうぞお気に召すまま」
 身体の輪郭を確かめるようになぞっていく。肩も腕も、実際に触れればこの上なく男性だった。その存在をしっかり認識したくて、隆起した喉仏に噛みつく。不意をつかれた茅ヶ崎は、痛みに喘いだ。あまりのバカバカしさに、すぐに口を離す。唾液が二人の間を繋いだ。それを消すように口元を拭う。
 そして、もう一度茅ヶ崎の全身を眺めた。
「……ま、それなりなんじゃない」
「そりゃどうも。で、脱いでいいの?」
 今度はよく考えてから「だめ。もうちょっと」と言った。語尾が上ずってしまったことに自分でも気づいて、茅ヶ崎が知らないふりをしてくれたことにも気づいた。下唇を噛んで、目を逸らしたいのに眼前の茅ヶ崎から目が離せない。
「……アンタのそういうとこ、本当だいきらい」
 瑠璃川は右手で自分の首を軽くしめた。ほんの少しの息苦しさが永遠にも感じられる。ようやく目を閉じてみても、長いこと見続けた茅ヶ崎のそのスカート姿は残像のように残った。
 だいきらい。口の中で呟いてから、瞼の裏にいる茅ヶ崎に向かって「キレイだよ」と言った。暗闇の向こうから「うん」と相槌が聞こえて、大きな手に頭を撫でられる。その手はあたたかくて大きくて、ひどく安心する。


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