VOID


至太  今日は、臣がいなかった。大学生らしく飲み会らしい。こんな夜はきっと訪問者がある。確信に近いものを感じながら、至はそっと自室に閉じこもった。

「至サン、入るッス!」
 軽いノックがあったあと、開けられたドアの向こうには予想どおり太一がいた。両手に、コーラとポテトチップを手にし、「ゲームしよ!」と無邪気に笑う。適当に座るように促すと、今日こそは負けないッスと意気込んだ太一との距離が近くなる。
 もう何度目かわからない。ルームメイトがいない夜、いつのまにか太一は103号室にやってくるようになった。得意ではないはずの格闘ゲームで至と対戦をし、なにかを忘れるように没頭していく。純粋にゲームを楽しんでいるのかは、知らない。とはいえ、ぜんぶ気づかないふりをするのはいささか面倒だ。
「……そろそろ臣、帰ってくるんじゃないの」
「ええ、なんでッスか?」
 コントローラーを懸命に操作するも、至の動かすキャラクタの攻撃をあっさりと受け、ダメージだけが蓄積されていく。意味をもたない言葉をつぶやいては画面上のキャラクタに合わせるように身体が動いて、太一の目は至をうつさない。
 至は、そうと気取られないように小さくため息をついた。勝つのがわかってるゲームに付き合うのも、そのあとも、生産性がなくて不健康だ。
 それがわかっているのに待ってしまうのは、何もないよりマシだから。
「あっ、また負けたッス……!」
 口を尖らせ落ち込む太一を横目に、持ち込まれたコーラに口をつける。そりゃあ、ね。そう簡単に勝てると思われても、癪だし。
 あーあ、とコントローラーを放り投げ、大げさにため息をついた太一は、ようやく至に顔を向けた。そこにいつもの爛漫な笑顔はなくて。あ、今日もまた。もう何度目かわからない。太一は、こうやって、なにかを忘れるように没頭していく。
 至サンには勝てないッス、口角だけあげて笑って見せた。その黒目は今にも眼窩からこぼれ落ちそうに思える。どろりと濁った瞳に誘われるように、太一をゆっくり押し倒した。
 薄暗い部屋の中で、さっきまでやっていたゲームのコンティニュー画面だけが眩しい。


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