デイパス


臣太  じっとりまとわりつくような暑さの夜だった。まだ眠らないからと点けていた電気が、ばちんと不気味な音を立て消えた。窓から外を見ると、寮全体が停電してしまったようだ。
 目を凝らしても凝らしても、どこまでいっても暗く、なにも見えない。諦めてベッドに仰向けになった。目を開けているんだか閉じているのか、わからなくなる。寄る辺なさに胸が締めつけられた。
「──臣クン」
 囁き声が聞こえる。姿ははっきりとしないが、声のしたほうを向く。いつのまにか臣のベッドに潜りこんだらしい太一が「まっくらで……こわい」と臣にしがみついた。その体温はあたたかく、確かに存在している。
 寂しくないように、ふたりで身を寄せ合ってその日は眠った。

 それから、一向に停電は終わらなかったし、夜も明けなかった。ずっと暗いまま、部屋から出られずにふたりはベッドの上で過ごす。暗いね、こわいねと腕の中で太一は言った。その度に、大丈夫だ、ここにいると背中を撫でた。
 暗闇に目が慣れることもなく、じっと息を潜めているだけは退屈だ。太一が不安に襲われないように、幾度も抱いた。間違えないように丁寧に輪郭をなぞり、しつこく繰り返し触って、そうすると不思議と唯一太一は輝いて見えた。──こわくない。こわくないからと愛しつくして、抱き疲れ、そのうちに眠る。目覚めても朝にはならない。だから、また慰めるように抱いて、それをどれほど繰り返しただろうか。
「……あ」
 微睡みから覚醒したらしい太一が、ふと身体を起こす音が聞こえた。声を頼りに腕を伸ばす。「どうした?」
「雨。──雨の音が、するッス」
 窓のある方に耳を傾ける。確かにぽつりぽつりと小さく雨音が聞こえはじめていた。そしてそれは時間の経過とともに激しさを増し、「どこにもいけないね」と言った太一の声はかき消されそうで、ぎゅっと抱きしめた。
「このままずっとこうならいいのに」
 思わず本音が漏れる。風呂にも入れず汗がべたべたまとわりつく気持ち悪さはあったが、それを差し引いても今ここには安心があった。
 手探りで太一を押し倒し、どこでもいいからその身体に唇を寄せた。太一の形をなぞって確かめて、その姿を思い浮かべる。瞼は、もしかするとずっと閉じているのかもしれない。
「なあ太一、このままずっと、」
「そんなこと言わないの。ね? 臣クン」
 控えめに笑う声がした。雨は、しばらくやみそうにない。


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