Your eyes closed


臣太  朝からしとしとと雨が降っていた。久しぶりにあった七尾は、慣れない喪服に身をつつみ、どこか知らない人のように思える。突然の訃報に目尻を赤くし、悲しみに俯くその姿は初めて見る顔だ。二人の間に、長い月日が横たわっていることを思い知る。かつては寝食を共にしたというのに。
 線香の匂いが身体中に染み込んでいく。祭壇に飾られた写真はあの寮で一緒に暮らしていたときに伏見が撮ったものだった。どうして。いつのまに。なんで。ぶつけようのない言葉を奥歯で殺し、拳をかたく握りしめた。悲しみがより強い実態となって襲ってくる。
 雨音が激しさを増した。建物の中に閉じ込められて、どこにも行けないような心持ちになる。息苦しい。
「あ……臣クン」
 その重々しさから逃げた先は、屋外に設置された喫煙所だった。煙草の残り香がかすかに漂う。そこに、同じく居心地の悪さを感じていたのか七尾がいた。申し訳程度の屋根で雨の直撃を避けているとはいえ、地面に叩きつけられた雨粒は勢いそのままに、喪服を濡らしていく。
「なんか……みんなとの久々の再会がこんな場所なんて、思ってもみなかったッス……」
「ああ……そうだな」
 すん、と鼻をならす。そして、七尾はポケットから新品の煙草を取り出し、フィルムを丁寧に剥がしていった。
 以前は影も形もなかったその存在に、戸惑って何も言えないでいるうちに、箱から一本取り出したそれをくわえ、安っぽいライターで火をつけた。吸うのか。いつから。そう言おうとしたが、その前に七尾はむせて、口元から煙草は遠ざかる。
「太一お前、吸えないのにどうして」
「ん〜、なんとなくッス! 喪服といえば煙草、って感じしない?」
 でもやっぱりムリだったね、とぎこちなく笑いながら、煙草から立ち上る煙を見つめる。ゆらゆら左右に振れながら空へ伸びる様は、線香を思い出させた。遠くで読経の声が聞こえる。
「俺、雨がやんだらまた吸ってみるッス」
 あんなに辛そうにむせたのに、七尾はまた挑戦してみるという。「でもそのときには喪服じゃないんじゃないか」
「うーん、そうかもしれないけど……でも」
 でも。その先は言葉が続かなかった。伏見は七尾の右手から煙草を奪い、深く肺に吸い込む。吐き出した紫煙は、やはり曲線を描き、直線にはならない。臣クンが吸うとすごくサマになる。七尾は笑って、雨音は瞼の裏に焼きついた。
 明日にはせめて、煙がまっすぐ空へ向かえばいい。


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